2003 Vol.1 No.1「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2003年11月30日発行
わが国明治期における人口増加の地域差に関する数理的分析
新田時也
要 旨
わが国の資本主義経済は,明治期(1868―1912)に著しく発展した.その結果,人口の急激な増加が実現した.著者はこの ような人口急増の本質的な検証を既に試みている.その概要は,次の通りである.すなわち,明治期を通して女子の晩婚化が 進み,それは人口増加率の上昇を抑制していくが,その抑制を上回るほどに女子の年齢別有配偶出生率が上昇した結果,当該 期に人口の急増が実現された.

本稿では,著者のこの主張を更に詳細に検証すべく,人口増加モデルに地域間移動を組み込むことで,人口増加の地域差を 明らかにした.得られた結果の概要は,次の通りである.すなわち,明治期の人口増加の様相は,「東北区および北陸区」と 「関東区および近畿区」とを比較した場合,後者の人口増加率が前者のそれよりも高い.それは見かけの人口増加率であって, 本質的には前者の人口増加率が後者のそれよりも高い.しかしながら,前者の地域から後者のそれへの大きな人口移動が,こ のような逆転現象を実現させた.つまり,人口の供給源とでもいうべき「東北区および北陸区」の人口増加を背景に,人口移 動に伴い「関東区および近畿区」の大きな人口増加が見かけ上,実現し,これらが総合されて,明治期に人口が急増したこと になる.