2004 Vol.2 No.1「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2004年7月31日発行
2003年7月26日宮城北部連続地震による
亜炭採掘跡地における陥没被害とその要因に関する考察
アイダン・オメル 海洋土木工学科
要 旨
2003年7月26日0時13分頃のM5.5の地震から始まって,震度5弱~6強の地震が連続して宮城県北部地方(主に宮城 県鳴瀬町,矢本町,鹿島台町,南郷町,河南町の5町を中心とした地域)に発生した.この地震は典型的な内陸直下型地 震であり,しかも震度6弱以上の地震が一日の間に3回発生したという特異なケースである.被害の点でも5月26日に発生した宮城県沖地震を大幅に上回るものであった. 筆者が特に注目したのは,矢本町小松地区で民家内や水田で噴砂跡 が見られたと陥没である.更に東北経済産業局から得られた情報により,亜炭採掘跡に関連して発生した陥没被害が矢本町だけで28ヶ所,河南町2ヶ所,松山町1ヶ所に及んだことが判明した.日本充てん協会の調査団のメンバーとして,宮 城県北部地震による亜炭採掘地域の地盤変状の実態を調査・検討するため,2003年10月7日に宮城県矢本町における一部の陥没地および噴砂の現場調査と,関係亜炭鉱業の資料収集を行った.
本論分で入手した地質・地震および災害速報や, 現地での聞取り調査,記録写真等をとりまとめ,さらに調査結果の検討・考察と模型実験を行い陥没や噴砂現象の要因について考察した.
陥没被害は32ヶ所に及び,池の内,上前柳,鷹の池,堰の内および館前などの数カ所に分かれて集中的に分布している.特に目立つのは鷹の池から堰の内の西部を挟み,更に池の内へかけて,北北西~南南東に伸びる線に沿って断続しながら18ヶ所で陥没が発生していることである.陥没部は大部分深度2m以下のもので,採掘跡の空洞も地下の比較的浅い所に存在した可能性が大きい.
陥没部が断続して分布する北北西~南南東の方向はほぼ亜炭層の走向と一致し,この方向 は,旭山撓曲の方向と平行に近い. 低地で地震直後に庭の作業小屋の隅から大量の水が噴出し巨大な穴が発生し,地下水が一時は高さ2m以上まで上がり,約10分間にわたって噴出して大量の土砂が周囲に堆積したと報告されている.
また,別な位置で陥没に伴って砂が噴出し,砂は家屋内および軒先から庭にかけて散乱していた. 陥没の原因としては,亜炭空洞の天盤の崩壊が直接原因であるが,空洞内の地下水の水圧変化は考えられるが,土被り約 2mという浅所では,地下水が高い被圧を受けていたとは考えられない.崩壊に伴って大量の砂が噴出したことは,地震 により地下水が大きく揺れてスロシング(sloshing)現象が起きたことを示唆するように思われる.
これらの現象の可能 性を検証するため,振動台を用いて亜炭廃坑の模型実験を実施した.振動によってスロシング現象が発生することと坑内の地下水が地表面に噴出されることが明確になった.斜坑内が堆積物で封鎖されていると考えて行った模型実験で振動に よって封鎖していた堆積物が崩壊し,スロシング現象が発生すること明確になった. 矢本町小松台における通用路で直径2.5mの土砂で充てんされた陥没がM3.6の余震でその充てん土砂は5m分の沈下 し,その沈下現象の機構は模型実験を用いて明らかにした. 本論分の内容は亜炭採掘跡地空洞の地震に対する挙動や耐震性の評価に資することである.