2004 Vol.2 No.2「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2004年8月31日発行
日本周辺の4海域で採集したトラザメ,
Scyliorhinus torazame,のPCBsとDDEの蓄積特性
堀江琢・田中博之・田中彰
要 旨
サメ類の生物学的・生態学的知見に基づくpolychlorinated biphenyls(PCBs)とdichlorodiphenyl dichloroethylene (DDE)の蓄積特性に関する研究は少ない.青森県,福島県,茨城県,対馬沖で採集したトラザメScyliorhinus torazame,計30個体の両物質の汚染状況を比較し,その蓄積特性を明らかにした.肝臓内脂質重量あたりのPCBs濃度 範囲は,青森県で0.40-1.5μg/g,福島県で0.41-1.6μg/g,茨城県で0.69-2.4μg/g,対馬で0.54-4.4μg/gであった. DDEは,それぞれ0.077-0.82μg/g,0.17-0.63μg/g,0.25-0.78μg/g,0.48-1.6μg/gであった.対馬の雄成魚の両濃 度は,雌に比べ高かった.雌は産卵により両物質を排出すると考えられた.対馬のDDE濃度が高く,日本の南方域での DDTの使用が窺われる.青森県で3塩化化合物の比率が高く,親潮による影響が考えられた.IUPAC No.118の濃度が 高く,毒性影響が懸念される.