2005 Vol.3 No.1「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2005年7月31日発行
ワカサギの成長に伴う胸腺の発達と胸腺に及ぼす飼育水温の影響
長谷川大輔・小野信一・原日出夫
要 旨
魚類の胸腺は造血幹細胞がリンパ球へ分化する場であり,生体防御において重要な器官であると考えられている.本研 究は,ワカサギの胸腺の存在位置,形状および組織学的構造を明らかにすると共にワカサギの成長に伴う胸腺体積の推移 を調べた.また,ワカサギの胸腺に対して飼育水温が及ぼす影響について検討した.ワカサギの胸腺は左右一対で鰓腔の 背側後部に位置し,その形状は棒状または洋梨形を呈していた.胸腺の組織学的構造は,上皮細胞に包まれた胸腺実質は リンパ球様細胞で満たされ,内域と外域の境界は不明瞭であった.ワカサギの胸腺は孵化後15日目頃に確認され,成長と 共にその体積は増加し9月で最大となった.それ以後胸腺は退縮し始め,産卵期の3月の個体ではほとんど消失してい た.この胸腺の退縮には性成熟の関与が示唆された.ワカサギを高水温(20度),通常の飼育水温(低水温:平均水温 17.3度)で飼育したとき,9月に採取した低水温飼育の個体では胸腺体積は高水温飼育の個体の2.3倍となり大きな差が 認められた.胸腺体積が減少した10月の個体では,胸腺実質内に上皮性細胞の増生や嚢胞の形成などの胸腺退縮を示す組 織変化が確認された,これらの組織学的変化は高水温飼育の個体で顕著であった.