2005 Vol.3 No.1「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2005年7月31日発行
駿河湾三保沖におけるカラヌス目カイアシ類の季節的消長
伊東 宏・水島 毅・久保田 正
要 旨
駿河湾湾奥の三保沖定点で,1979年4月〜1980年6月に30m層から海面までの鉛直曳きにより採集された動物プランクトン試料に基づき,カラヌス目カイアシ類の季節的消長を明らかにすることを目的に研究を行った.

出現種は19科41属109種に及び,この内の21種は駿河湾では初記録であった.季節毎の群集の特徴は,冬〜春季では少数の内湾・沿岸性種の増加により個体数密度が年間で最も高くなり,夏季ではこれが減少し,夏季特有の内湾・沿岸性種が出現するとともに外洋性種の増加が始まり,秋季では外洋性種がさらに増加し,種数,多様度指数が年間で最も高い水準となることであった.

個体数密度および出現頻度が高い40種のうち,12月にのみ多かったEucalanus subtenuisを除く39種の季節的消長は(1)〜(4)の4型に類型化され,個体数密度と水温との関係は次の通りであった.

(1)秋型:個体数密度は特に9〜11月に高く,いずれの種も水温との間に正の相関が認められた(外洋性種:14種;内湾・沿岸性種:1種).
(2)秋〜冬型:個体数密度は9〜11月だけでなく12〜2月にも高く,いずれの種も水温との間には相関が認められなかった(外洋性種:10種;内湾・沿岸性種:なし).
(3)冬〜春型:個体数密度は12〜5月に高く,半数以上の種では水温との間に負の相関が認められた(外洋性種:6種;内湾・沿岸性種:5種).
(4)夏型:個体数密度は特に6〜8月に高く,いずれの種も水温との間に正の相関が認められた(外洋性種:1種;内湾・沿岸性種:2種).

これらの季節的消長の違いは,外洋性種では至適水温や鉛直分布の違い,内湾・沿岸性種では休眠卵の形成時期,餌料生物や捕食者の季節的消長が関与していると考えられた.