2005 Vol.3 No.2「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部 2005年11月30日発行
2005年3月28日マグニチュード8.7のニアス地震の特徴と地震に伴う 津波および構造物の被害
アイダン・オメル 東海大学海洋学部海洋土木工学科
三輪 滋 飛島建設株式会社防災R&Bセンター
児玉裕之 飛島建設株式会社土木本部
鈴木智治 OISCA International ジャカルタ,インドネシア
要 旨
3月28日マグニチュード8.7の地震が2004年の南側の領域で発生した.地震を起こした断層の長さは約500km,幅100 km,滑り量は約10m にも及ぶ巨大地震であるが,2004年の地震に比べれば規模が小さい.ニアス島は,南北約150km, 東西50km,人口約70万人の島である.震源が島の北東に位置し,破壊領域が島の下に伝達したことにより大きな被害が 発生した.国連の調べでは,死者847人,負傷者6279人を数える.地震の地震発生機構は逆断層型であり,その断層の傾 斜は約4-7°であった.2005年の地震破壊時間は約150秒であり,推定破壊伝達速度が約3.3km/sであった.ニアス島の 被害調査は図-1に示すように島の東岸を中心に実施した.主な都市や被害地点を図中に示す.西岸は地震被害の影響も あり道路状況が悪く調査できなかった.
ニアス島の橋梁のうち橋長が長いものは,トラス橋,RC 橋,RC ボックスカルバート橋とそれらの組み合わせである. 大きな被害を受け交通が遮断されている橋梁としては,北部のムゾイ橋梁,東海岸のサウォ橋梁がある.ムゾイ橋の橋脚 は液状化により傾斜,沈下した.橋台取り付け部の地盤は河心方向に4m 程度移動し,3〜4m の沈下が見られた.サウォ 橋梁では,橋台とそれに続くボックスカルバートが上流側に傾斜し,トラスは水平方向に1.3m 移動した.ボックスカル バートの基部が川の流れで直接洗掘されたことと,周辺で確認された砂層の液状化が被害の原因と推定される.
このほか,Gunung SitoliとTeluk Dalam の間の多くのトラス橋やRC 橋の橋台が河心方向への移動,傾斜の被害を 受けた.水位付近に砂層が確認される場合が多く,液状化に伴う地盤の流動が影響していると考えられる.橋台背後の盛 土も30cm 以上沈下している場合が多い.
道路は地震により,盛土の崩壊,斜面崩壊,液状化による地盤の側方流動の影響などにより亀裂や大きいところでは 1m 以上の沈下などの被害が数多く発生した.地震以前から,アスファルト舗装の状態が良くない箇所が多く,各所にく ぼみが生じている状態であり,良好な輸送路の確保には舗装の更新が必要と考えられる.Gunung Sitoliでは,液状化に よる被害が確認された地域で,桟橋の杭頭部で亀裂が生じ,沈下や側方への変形が見られた.島の南端のTeluk Dalam では,桟橋の一部が水中に没する被害が生じた.
都市部や比較的大きな町では,2階かそれ以上の階数のRC 建物が存在し,その多くがパンケーキモードの崩壊や大き な被害を受けた.RC 構造物の多くはフレーム構造で,壁はレンガかブロックである.被害を受けたRC 構造物の多く は,建物重量が大きい割には柱が細いこと,また鉄筋量が少ないこと,帯鉄筋が細く間隔が大きいこと,帯鉄筋の定着, 柱梁接合部の鉄筋の定着,耐震壁がないことなどから,大きな地震力が作用したことでパンケーキ状の崩壊か厳しい被害 に至ったと考えられる.死者の多くは,これらの建物の下敷きとなったものである.また,壁の面外方向への倒壊も多 い.多くの教会も被害を受けたが,壁の倒壊が非常に多かった.Gunung Sitoliでは液状化による沈下と地盤の流動で海 岸沿いや河川沿いの多くの建物が被害を受けた.べた基礎でないことや基礎が地中梁で結合されていないことで,建物が 沈下し,柱が変形し,1階の床が浮き上がるという被害が確認された.
海岸線沿いや河川沿いには砂質地盤が存在し,多くの地点で液状化が確認され,噴砂,地盤の流動,沈下といった被害 が発生した.Gunung Sitoliでは,海岸に近い地域や埋立地の広い範囲で地盤の流動が確認された.また,橋台が河心方 向へ移動する被害には,砂地盤の液状化に起因する地盤の流動が関係している場合が多く確認された.しかし,ニアス島 では地盤調査データの蓄積がほとんどなく,都市部の再開発や橋梁などの重要構造物の建設に関する基礎構造の設計に は,地盤調査の実施が重要な課題と考えられる.
津波の被害は,島の北端部のTuhemberua(ツエンベルア)周辺と島の南端部のSorake(ソラケ)ビーチで確認され た.津波の高さは住民の話では,それぞれ4〜5m,6〜7m 程度であり,周辺の民家や2階建て程度のRC 構造物が倒壊 などの被害を受けている.西岸では,さらに影響が大きいとの情報もあり,正確な情報の蓄積が必要である.
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