2005 Vol.3 No.2「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2005年11月30日発行
静岡県清水港に棲息するカサゴSebastiscus marmoratus の
生態的特性と遺伝的特性
矢冨洋道・宮川友則・秋葉正史
要 旨
清水港内で採集したカサゴの全長範囲は10.5〜24.2cm であった.魚体組成,性比,肥満度,摂餌量指数の結果から, 港内における成魚の生活周期が,4〜9月と10〜3月に大別された.すなわち,4〜9月は,小型個体が比較的多く出現 し,雄の比率が高く,摂餌が活発で肥満度も高い,いわば新規個体の加入と個体の成長が認められる時期であった.一 方,10〜3月は,大型個体が比較的多く出現し,雌の比率が高く,生殖腺指数の高まりと産仔が見られる,いわば再生産 に関わる時期であった.

相対成長,成長式,年齢,成熟,産仔,孕卵数では,地域的に数量的な差や時期的なズレが認められたが,明確に別集 団を示唆するような結果は得られなかった.九州地域や瀬戸内海地域との比較によって,清水港のカサゴの形態的,生態 的特性は,九州地域と愛媛県宇和海のカサゴに近いと考えた.また,香川県女木島との遺伝子組成の比較では,統計的に 有意な差は得られなかった.しかし,地域集団が存在する可能性も示唆された. こうした結果は,成魚の狭い行動圏と 仔魚の長い浮遊期によって特徴づけられる,カサゴの生態的特性に起因して生じたと推察した.