2005 Vol.3 No.3「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2006年3月31日発行
小笠原海域,母島海山の岩石・鉱物
蛇紋石泥とアラゴナイト・沈殿性蛇紋石・コーツィン
東 豊土・加藤孝幸・坂本 泉・金 容義
要 旨
母島海山は,伊豆−小笠原海溝とマリアナ海溝との会合部の西約20km に位置している.蛇紋岩の分布は狭く,面積比 で母島海山全体の約2〜5% に過ぎず,母島海山は蛇紋岩海山であるという解釈は困難であり,島弧火成活動を受けた 上部マントル−地殻断片が破砕され,上昇・定置したと考えられる。2003年度St.3における採泥では,蛇紋岩・蛇紋石 泥,チャートおよび針状のアラゴナイトが採取された。蛇紋岩・蛇紋石泥はリザルダイト−クリソタイルが卓越し,アン チゴライトがまれに認められる.蛇紋岩やチャートの割れ目には沈殿性蛇紋石やコーツィンが認められる.円磨度や粒径 は不淘汰で基質は未固結である.蛇紋岩・蛇紋石泥の産状は陸上における蛇紋岩地すべりの産状と似ており、蛇紋岩定置 後の海底における蛇紋岩地すべり堆積物である可能性が高い。針状で蛇紋石を含むアラゴナイト,沈殿性蛇紋石やコーツ ィンは,海底面の蛇紋岩・蛇紋石泥中に生成している.これらは,海山浅部の蛇紋石泥中を流動する間隙水の本来の組成 に加えて,表面における蛇紋岩の風化作用による成分が加わり,Ca2+,Mg2+やFe2+・Fe3+などに富んだために形成され た.