2006 Vol.4 No.1「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2006年7月31日発行
駿河湾における大型毛顎動物の鉛直分布
伊東宏・小野泰嗣・久保田正
要 旨
駿河湾における大型毛顎動物の鉛直分布を,湾央部において1980年8月,’81年11月,’82年2月,’83年5月に採集され たプランクトン44試料に基づいて明らかにした.試料は,口径160cm リングネット(網目幅2mm)を用いて,海面か ら深度1,000m までの5または7層を同時に水平曳きによって採集された.

出現種は3科12属19種であり,全て駿河湾では既知の種で,8月と11月に多く,2月と5月に少なかった.

種別の個体数組成は,表層(200m 以浅)と中層(200m 以深)では明らかに異なっていた.表層では,周年にわたり, エンガンヤムシが卓越しており,8月と11月にはこれにフクラヤムシが,2月にはノコギリヤムシが加わった.中層で は,コトガタヤムシ,シンカイフトヤムシ,Eukrohnia fowleri などの中層性種の出現により特徴付けられており,多様 度指数は揚網中に混入した表層性種を除外して計算しても,表層に比べて高かった.

それぞれの出現種について加重平均深度を算出した結果,鉛直分布の中心は次の3つの深度帯に属するものと推察さ れ,相模湾における既往の結果とよく一致した.

表層(200m 以浅):カタヤムシ,オオカタヤムシ,フクラヤムシ,ノコギリヤムシ,エンガンヤムシ.
中層上部(200〜500m):オオヤムシ,ナガメヤムシ,コトガタヤムシ.
中層下部(500〜1,000m):クローンヤムシ,Eukrohnia fowleri,E.bathypelagica,シンカイフトヤムシ,メクラヤムシ.

これらのうち,表層に分布の中心をもつエンガンヤムシとフクラヤムシでは顕著な日周鉛直移動が認められたが,中層に分布するコトガタヤムシとシンカイフトヤムシでは鉛直分布の昼夜による差は不明瞭であった.また,シンカイフトヤ ムシでは最大個体数の認められた採集層が8,11月に比べて2,5月に浅くなる季節変化が認められ,成長,成熟に伴う 鉛直移動(Ontogenetic vertical migration)の関与が考えられた.