2006 Vol.4 No.1「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2006年7月31日発行
2005年カシミール地震の地質および地震学的特徴と自然および人工斜面の崩壊に対する地盤工学的な評価
アイダン・オメル
東海大学海洋学部海洋土木工学科
要 旨
パキスタンに発生する地震の大半はインドプレートとユーラシアプレートの衝突によるものである.インドプレートは 約40mm/yearの速度でユーラシアプレートの下に沈み込んでおり,ヒマラヤスラストに沿って逆断層型の地震活動が多 い.インドプレートの西側ではChaman(チャーマン)断層に沿っては左横ずれ,一方インドプレートの東側では右横 ずれ型の地震が主な地震機構である.ヒマラヤスラストは四つに分類され,これらは主フロントスラスト(Main Frontal thrust, MFT),主中央スラスト(Main Central thrust, MCT),主境界スラスト(Main Boundary thrust,MBT)およ び主マントルスラスト(Main Mantle thrust, MMT)である.主境界スラストは約2500km であり,ヒマラヤアークに 沿ってアッサムからパキスタンの西まで延びている.2005年10月8日の地震は主境界スラストのカシミール・ハーザラシ ンタキスの西側で発生した.地震発生地域の主な断層はMurree断層とPanjal断層である.これらの断層は共役であり, Murree断層はNE,Panjal断層SW に傾斜しており,主境界スラストの下盤に位置する.Murree断層はMuzaffarabad でTanda断層と合流し,Balakot まで延びている.

この地域の地震活動についてビールハム((i.e.Bilham 1989;Bilham & Ambraseys,1988,etc.)氏が研究している.ヒ マラヤスラストに沿って発生した地震とその影響範囲をFigure4に示す.2005年10月8日に発生した地震は空白域とし て考えられる地域で発生した.しかし,この空白域全体が今回の地震で破壊したものではない.未破壊の部分では同規模 な地震が起きる可能性がこの地域に存在しているといえよう.1973年から本震が発生するまでの間に,震源域にほとんど 地震活動が認められない.

2005年10月8日に発生した地震について様々な機関が地震の発生機構を求めた.USGS の地震発生機構に対する解以 外,他の機関の解はほとんど同様である.余震活動と地域のテクトニクス的な特徴から走行がNW-SE でNE に30-39° で傾斜している右横ずれ成分を有する逆断層運動によって地震が発生したと推定されている.東京大学地震研究所と HARVARD 地震研究所の公表した解をFigure7に例として示す.地震断層運動による相対ずれは機関によって異なり, 推定値は6-12m の間に変化している.しかし,過去の同規模な地震に対するデータよりその相対ずれは4-5m 程度であ ると推定される.SAR 技術を利用して国土地理院よって地震に伴う地表面変位分布が推定され,その最大値は4-6m で あると報告された.地表面に明瞭な地割れの発生は報告されていないが断層の位置とその長さは解析結果より明瞭であ る.地形的に推定される断層線にそって帯状に斜面崩壊がBagh(バグ)よりMuzaffarabad(ムザファルアバット)を 通ってBalakot(バラコット)まで発生した.特に地震断層帯を形成している白い石灰岩層(パキスタン地質局によれば 苦灰石)における斜面崩壊の規模が最も大きい.この現象は逆断層運動による地盤の変形挙動に対する室内で見られた現 象と同様であると思われる.推定断層長は80-90km と推定された.本震後,地震断層のNW 端に活発な余震活動が見ら れ,その余震の地震機構はほとんど本震のものに類似している.

震源に最も近いAbbotabad(震源から44km)の強震記録であり,Abbotabadは地震断層の下盤であり,最も大きい 揺れはEW(0.231G)に発生している.震源に最も近いMuzaffarabadおよびBalakot において地震記録はない.しか し,Balakot で大きく被害を受けた橋周辺でマイクロ・バスの転倒したことから少なくとも0.9G 以上の加速度が作用し たと推定された(Figure10).加速度応答解析結果を見ると,加速度応答スペクトラは大変フラットで,0.4と1.5秒の 間にその卓越固有周期があると考えられる.

カシミール地方は急傾斜を有する山地であり,谷底と山の落差は2000m を超えている.2005年カシミール地震によっ てJhelum,Neelum およびKunhar谷の両側の斜面に大規模な斜面崩壊が多数発生した.震源地域における斜面崩壊は土 質斜面の崩壊,風化岩盤の表層すべり破壊と岩盤斜面の崩壊に大別される.土質斜面の場合,深い円形すべりと浅い平面 すべり崩壊が発生した.特にBalakot およびMuzaffarabadで家屋や建物の崩壊要因となったのは大きくて丸い礫を含 む土質斜面の崩壊であった.この地方に過去に存在した氷河によって谷底に堆積したこの地層は急流であるJhelum, Neelum およびKunhar川によって削り取られ,70°を超える急傾斜で高さ20m 以上の斜面が形成されている.今回の地 震の揺れによってこれらの斜面が崩壊した.一方,風化した頁岩や断層運動によって破砕された苦灰石で形成されている 岩盤斜面では地震断層にそって深い表層すべり破壊が発生した.岩盤斜面の場合,平面すべり破壊,くさび破壊,たわみ 性やブロックトップリング破壊が発生した.特に平面すべり破壊とブロックトップリングによる崩壊物が道路に被害をも たらし,交通が寸断された.地震断層のSW 端にあるKalrahi地域では面積が2×1.5km である大きな斜面崩壊が発生 した(Figure12).この斜面崩壊は平面すべり破壊に類似したくさびすべり破壊であり,崩壊物が川をせき止め,天然湖 が形成された.岩盤はBalakot 赤い頁岩と呼ばれている岩盤で,すべり面の大半は層理面で構成されている.また,崩 壊した斜面に存在した家屋が破壊され,十数名の犠牲者がでた.