2006 Vol.4 No.2「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2006年11月30日発行
駿河湾三保沖における毛顎類の季節的消長
−駿河湾奥部における動物プランクトン群集の季節的遷移
伊東宏・水島毅・久保田正
要 旨
駿河湾奥の三保沖定点で,1979年4月〜1980年6月に30m層から海面までの鉛直曳きにより採集された動物プランクトン試料に基づき,浮遊性毛顎類の季節的消長を明らかにすることを目的に研究を行った.

出現種は3科8属15種に達し,毛顎類群集は,春〜夏季には沿岸性の単一種による高い個体数密度,夏〜秋季では外洋性種の増加に伴う高い種多様性によって特徴付けられた.

出現・度が10%を超えた11種の季節的消長は次の(1)〜(4)の4型に類型化され,個体数密度と水温,塩分との関係は次の通りであった.

(1)夏〜秋型:個体数密度は特に夏〜初秋季に高く,12月にはほとんど出現しなくなった.いずれの種も水温との間に正の相関が認められた(内湾性種:ナイカイヤムシ: 外洋性種: ヒメカタヤムシ,カタヤムシ).
(2)夏〜冬型:個体数密度は夏〜冬季に高く,1月初旬まで出現した.いずれの種も水温との間に正の相関が認められた(外洋性種:フトエリヤムシ,オオカタヤムシ,フクラヤムシ,ネッタイヤムシ).
(3)秋〜春型:個体数密度は晩秋〜春季に高く,1種で水温との間に負の相関が,2種で塩分との間に正の相関が認められた(外洋性種:ノコギリヤムシ,ヒメヤムシ,ヘラガタヤムシ).
(4)春〜夏型:個体数密度は特に5〜6月に高く,水温との間に正の相関が,塩分との間に負の相関が認められた(沿岸性種: エンガンヤムシ).

外洋性種における季節的消長の違いは,種による至適水温や鉛直分布の違いが関与し,沿岸性種では餌料であるカラヌス目カイアシ類の季節的消長が関与していると考えられた.

本研究で扱った毛顎類と同時にネット採集され,すでに報告されたカイアシ類や尾虫類などの知見と物理環境(水温・塩分)のデータから,駿河湾奥部における動物プランクトン群集の季節的遷移について概要をまとめた.