2006 Vol.4 No.3「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2007年3月31日発行
半閉鎖性水域における溶存バリウムおよび
ケイ酸塩の分布の特徴
中村智己・副島広道・加藤義久
要 旨
半閉鎖的水域である伊勢湾や瀬戸内海において,溶存バリウムおよびケイ酸塩を測定し,駿河湾および黒潮系水を対照 海域として,これらの陸起源物質の水域ごとの分布の特徴を調べた.

伊勢湾では(2003年4月,2005年4月観測),湾口において熱塩フロントが発達し,湾内では低塩分・高バリウム濃度で あり,その分布は保存性の混合に支配されていた.大阪湾では(2003年4月),バリウム濃度は神戸港から友が島水道に 向かって漸次減少の分布を示し,ケイ酸塩は湾中央域でほぼ枯渇していた.しかしながら,溶存バリウムは塩分に対して 保存性の分布を示した.広島湾では(2001年11月),湾内におけるバリウム濃度が太田川水と比べてより高かった.太田 川以外にも高バリウム河川水の供給が考えられる.瀬戸内海においては(2001年11月),東部域で低塩分・高バリウム, 西部域ではその逆の分布傾向であった.特に,滞留時間の長い播磨灘海水中では高いバリウム濃度が見いだされた.しか しながら,瀬戸内海全域をみれば,バリウムと塩分との強い相関関係は,バリウムの分布が内海水と外洋水との混合によ って支配されていることを示している.