2006 Vol.4 No.3「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2007年3月31日発行
折戸湾プロジェクトについて
海洋学部海洋建設工学科
福江正治
東海大学清水キャンパスで海の研究している者にとって,折戸湾と清水港は庭先みたいなものである.ま た,東海大学の望星丸にとって清水港は母港である.いずれにしても清水港と折戸湾は余りにも身近な存在 であるために,一部の研究者を除いて研究対象とは余り考えていなかったとも言える.実際,どこまでが清 水港で折戸湾とはどの海域なのかさえ知らないばかりか,いつから貯木場として利用されてきたかについて もこれまで興味の対象外であった.それは我々にとって海洋環境調査には望星丸を利用するということが東 海大学では歴史的に重要であり,研究対象が外洋へ,また遠方へと拡がっていったことにも起因している. それはそれで大変意義のあることであり,海洋に関する学問の進展に少なからず貢献してきたとの自負もあ る.しかしながら,これとは別の動きとして,沿岸の環境に対する関心と静岡市が政令都市となる気運も高 まったころ,仲間と共に言わば折戸湾改造プロジェクトを立ち上げようと働きかけた.もちろん大学院生や 学部生の教育の一環とすることも大きな目的であった.

このプロジェクトの参考になるのは,英国リバプール市の海事都市,カナダのバンクーバー港やビクトリ ア,ポルトガルのリスボンやその近郊である.この中にはリバプールのように海事都市として世界遺産にな っているものもある.これらの沿岸域は自然景観と人が築いた歴史と文明,文化を融合させた港湾域である が,それらと比較してみても富士山,駿河湾,日本平などを擁する折戸湾は立地的には負けない潜在力を持 っている.しかしながら,その利用方法等についてはまだまだ検討の余地があり,短期間にはなかなか構築 できるものではない.また,世界各国には大学と街が融合した大学都市が数多くある.そこでの産学連携の あり方,大学と周辺環境の整備,また教育を通して行う民学交流など,東海大学が参考にできることが数多 くあると考えている.

このような背景から,私たちが地元に対して貢献できることは,折戸湾を主体とした環境整備への提言を 行うことではないかと考えるようになった.しかしながら,そのためにはあらゆる分野からの検討が必要と されるのは明らかで,経済的な問題を別として,たとえ潜在的な条件が整っているといっても現状のままで は困難であることは容易に理解できる.まず基本的に必要なことは,環境学的に現状を把握し,その評価を 行うことから始めるべきとの結論に達した.その上で問題点があればその対策を行うための施策を検討し, またその環境が整えば次のステップへ進むことが可能と思われる.

今回のプロジェクトは,海洋物理学,海洋化学,海洋生物学,海底環境学,水産学,海洋土木工学の専門 家とそれに賛同する企業がチームを組んで2004年7月に立ち上げたものである.立上げから2年半を経て調 査研究の成果をほぼまとめることができた.今回公表できないものについては,時期を見て公表したいと考 えている.また,プロジェクトとは別に折戸湾・清水港に関係する論文募集を行い,それに対応して2編の 論文が投稿・掲載されるに至った.

なお,本特集を組むに当り,東海大学海洋学部紀要委員会,加藤義久委員長および委員各位には絶大なる ご支持とご配慮を賜った.また,本プロジェクトの遂行には,学術振興会からの補助金(研究代表者佐藤 義夫課題番号.16510067),東海大学海洋研究所コアプロジェクト研究補助(代表者上野信平)および 国土総合建設鰍ゥらの委託研究費(代表者福江正治)に依った.この場を借りて関係各位に謝意を表した い.また,今後このプロジェクトの遂行に多くの方のご参加を願う次第である.