2006 Vol.4 No.3「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2007年3月31日発行
D.H.ローレンス思想と老荘思想との共鳴点に関する一試論
−その2
田形みどり
要 旨
D.H.ローレンスも老荘思想も人間が自然界の中の一存在形式であることを見据えたのであった.人間中心の文化社会 にあって,彼らは既成の人間性や道徳規範を見直す必要があった.D.H.ローレンス文学における非人間的,非人格的要 素そして老荘思想における非情という要素は,ここから生じているのである.D.H.ローレンスはひとりの人間の中核 に,その人間をその人間たらしめている磁極を捉えた.その磁極は自然界の他の諸々の磁極と対極をなし磁波が流れる. 太陽,月そして地球は巨大な磁極であり,すべての生物はその中心に磁極を抱いている.岩にも磁極がある.老荘思想 は,自生自化する森羅万象の生滅変化する流れである「道」を捉えた.「道」に目覚めることにより,人間も「道」の末 端の造化であることを悟った.D.H.ローレンスは磁極を捉えることによって,そして老荘思想は「道」に目覚めること によって,彼らの前には無限に豊かな生命の宝庫が開現したのであった.