2006 Vol.4 No.3「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2007年3月31日発行
「ロッコール島の領有権問題について」
牛尾裕美
要 旨
1970年代半ばごろにロッコール島周辺の大陸棚において,石油・天然ガス資源の賦存可能性が認識されるに至り,イギ リス,アイルランド,デンマーク及びアイスランド間において,同島周辺の大陸棚更には200海里の漁業水域の境界画定 をめぐって紛争が生じた.当初イギリスは,同島をその漁業水域設定に際して基点とした.本稿では,国連海洋法条約第 121条に言う島と岩の解釈の争いを念頭に置きながら,その前提として,まずイギリスとアイルランド間において見解の 相違のある同島の領有権について明らかにしたい.

本稿で検証したロッコール島に関する文献を見るかぎり,1955年の同島におけるイギリスの象徴的併合に対して,当時 いずれの国家も抗議を行わなかったこと,国家機関である英国海軍による同島への毎年の訪問,1972年には同島をスコッ トランドに編入するロッコール島法の制定による正式な併合措置,特にこの併合措置に対するアイルランド政府による無 関心の表明とともに何ら外交的抗議も行われなかった点に鑑みれば,遅くとも1972年のロッコール島法の制定をもって, イギリスによる同島の領有権は確立したものと看做してよいと思われる.