2007 Vol.5 No.2「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2007年11月30日発行
サッカーにおける中枢疲労が状況判断能力に及ぼす影響と
中枢疲労因子としてのアンモニアの関与
大森肇・青木大輔・窪田辰政・金木悟・村上繁
要 旨
本稿では「サッカーにおける中枢疲労が状況判断能力に及ぼす影響」に着目し,1)サッカーにおける生理的応答2) 身体運動と計算成績の関係3)中枢疲労因子としてのアンモニア,についての知見をまとめ概観した.
1)サッカーの運動形態はさまざまな強度の走運動を基本に,ジャンプ,ターン,キック,ドリブル,タックルなどの 高強度運動が不規則に要求される間欠的運動であり,試合中の平均酸素摂取量は70-80%VO2max の範囲にある.また試 合中や試合直後のデータから推測すると,一時的に血中乳酸値が10mmol/l以上になる局面の存在が考えられる.2)運 動負荷と計算成績の逆U字関係を認める知見は多い.その場合,運動強度と運動時間を総合して捉えることが妥当であろ う.また,解答速度と正確性という両面からの検討が一層必要とされる.さらに,これらの問題は運動負荷に対する被検 者の疲労耐性を考慮した上で論じられる必要があろう.3)運動時におけるアンモニアの生産経路は主に骨格筋内のプリ ンヌクレオチド回路であり,速筋線維を動員する高強度運動時やpH の低下を伴う疲労時においてアンモニアの産生が高 まることが推察される.また,運動によって上昇した血中アンモニアは血液脳関門を通過して脳内アンモニアを上昇さ せ,脳エネルギー代謝に対して抑制作用を有する可能性がある.さらに,脳内アンモニア代謝亢進によるグルタミン酸, GABA の減少がそれぞれ神経伝達機能,持久的運動の遂行にネガティブな影響を与えると考えることができよう.