2008 Vol.6 No.1「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2008年03月31日発行
メルヴィルの『オムー』に見る半文明化されたタヒチとモーレア
−南海の楽園を侵食する白人キリスト教文明の功罪−
五十嵐 博
要 旨
メルヴィルの第2作『オムー』−現地語で放浪者の意−は,土地も民もすでに半ば文明化された19世紀中葉近くのタヒチとモーレアを描いている.彼はこれらの島々を放浪した自らの経験に基づいてこの作品を書いたが,その目的は「真実の語り手」として,文明と布教がポリネシアの人々に及ぼした影響を世に伝えることであった.彼は半文明化された現地人の道徳・宗教・社会状況を描き,彼らの生活に白人キリスト教文明がもたらした幾多のマイナスとわずかなプラスについて語っている.布教活動と文明の影響は,ほとんど現地人のためになっていない,もっと正確に言えば,彼らの文化を消し去って,種族としての存在を絶滅に追いやっているとメルヴィルは言う.処女作『タイピー』と合わせてこの作品の中に私たちは,元捕鯨船員メルヴィルが国際人,地球人の視点から,自らがその中で育った文明と宗教について言わねばならなかったことをはっきりと聞くことができる.