2008 Vol.6 No.2「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2008年07月30日発行
「海洋アジアの工業化と国際小麦貿易」
金子晋右
要 旨
近年,海洋アジア地域では,工業化が急速に進行している.その背景の一つに,欧米産小麦の大量輸入がある.これに より,労働力が農村部から都市部の工業部門へと移動可能となった.加えて,欧米産小麦は,モンスーン・アジア地域の 主食であったコメよりも低価格であったため,都市労働者の食費や生活費が低下した.日本では,1960年代から始まっ た,欧米産低価格小麦の利用による食費の節約は,第一に,貯蓄率の上昇とそれに伴う投資額の増加,第二に,教育水準 の上昇とそれによる優秀な労働力の増加,そして第三に,家電製品の国内市場の拡大をもたらした.よって,欧米産低価 格小麦の大量輸入は,日本の高度経済成長に,大いに貢献したと言える.そして,日本と同様の,都市への人口流入とそ れに伴う小麦輸入の増加が,韓国でも60年代以降に,マレーシアでは80年代に,そしてタイでも90年代に生じている.他 国でも,日本と同様に,低価格の輸入小麦が,経済成長に大いに貢献していることが,推測される.