2008 Vol.6 No.3「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2008年11月30日発行
『マーディ』での若きメルヴィル-(2)
-喪失と幻滅-
五十嵐博
要 旨
本稿は,メルヴィルの第3作『マーディ』の構成,プロット,および登場人物たちを分析し,作品に宿されている寓意的・象徴的意味を解明しようとするものである.
プロットは神秘的で謎めいており,この寓意ロマンスに隠れた意味があることを暗示している.プロットの本流で発生する3つの出来事,すなわち主人公と純真無垢なイラーの出会い,イラーの失踪,そしてイラーを再発見し取り戻すための長旅が,作品構成の言わば竜骨を形成している.失われた純潔と純真無垢の探求はマーディ中で行われるが徒労に終わり,マーディは罪悪多き現実の人間世界の縮図となっている.
登場人物たちはメルヴィルの代理人もしくは分身として見て取ることができる.主人公のタジはメルヴィルの本能を,ババランジャは理性を代弁し,復讐者たちは罪の意識を,ホーシャの使者たちは性の誘惑を意味している.イラーは純真無垢,善,理想の象徴で,ホーシャは罪の歓び,悪,人間の現実を象徴している.