2009 Vol.7 No.1「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2009年03月31日発行
沖縄マーラン船の船型に関する調査研究
八木光・河邉寛
要 旨
古来,琉球では独自の造船技術が発展してきた.琉球の伝統的なふねにマーラン船と呼ばれる船があり,琉球の島々および日本との輸送に使われてきた.そのマーラン船は時には山原船とも呼ばれることがあるが,現在では実際に運航されている船はない.従って,伝統的な船作りの技術を伝承する船大工も非常に少なくなっている.
マーラン船の建造技術は,歴史的には1372年から1830年の間に明,清との進貢貿易に使われた「進貢船」の影響をかなり受けていると考えられている.進貢船は当初は中国で建造され琉球に与えられたものであるが,1557年ごろには明により許可され,琉球で唐船が建造されたという資料も残されている.この時代に建造を通じて習得された技術が琉球全般に広がり,船大工の技術の蓄積と改良により地域特性に合った技術として発展したものと考えられる.
沖縄県うるま市海の文化資料館では,市の無形文化財である越来治喜氏により建造された大型模型が展示され広く伝統文化の教育に供されている.さらに,同氏の建造による大型船も作られており,マーラン船の現代技術が公にされ,受け継がれつつある.今回の調査研究は海の文化資料館および越来治喜氏の全面的な協力を得て,レーザートータルステーションを利用した船体形状の計測を行い,船の詳細な形状を明らかにすることができた.
本論文では調査の概要を述べるとともに,引き続き行われた水槽試験用模型船を用いた実験,現代の造船理論を用いた運動の予測など船の流体力学的な特性を明らかにする.また,中国の造船技術との関係を調査するため,船体形状の詳細明らかな進貢船との比較を行い船体形状の特徴を明らかにする.
このような文化財としての船の調査では,詳細な形状把握を行い,当時の船の特性を現在の技術をもとに分析評価することは無形技術の文化的伝承にも必要不可欠であり極めて有意義なものであると考えられる.