2009 Vol.7 No.3「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2010年01月30日発行
2009年イタリア中部ラクイラ地震の特徴およびその予知と地盤被害について
Omer AYDAN, Halil KUMSAR, Selcuk TOPRAK and Giovanni BARLA
要 旨
2009年4月6日午前3時32分頃(現地時間)にイタリア中部ラクイラ(L’Aquila)においてML=5.8,MW=6.3の地震が発生し,多数の犠牲者を出すなど,大きな被害が生じた.この地震による犠牲者は294名(4月12日現在),負傷者は1,000人以上であった.著者らは(社)土木学会,(社)地盤工学会,(社)日本建築学会および日本地震工学会は,4学会協同による合同調査団のメンバーとして2009年4月18日〜23日にかけて,ラクイラ及び周辺地域の現地調査を実施した.
本論文でこの地震の特徴,施設の被害とその評価について報告した.本論文の主な結論は下記の通りである.

1)今回の地震で見られた前震活動は地震予知の観点から大変興味深いものであった.しかし,前震活動とラドンガスの異状を元にGran Sasso核物理実験所の技術者が地震予知をしたとの報告は地震予知の基礎的条件を満足しなかったため,正しいものでない.この例から地震予知を行う上で多重パラメータ総合システムが重要であることが明らかになった.
2)イタリアはヨーロッパ諸国のなかでは最も地震活動の活発な国の一つであり,現在までにも繰り返し地震被害を受け,耐震設計法の充実を図ってきた国であるが,この地震で大きな被害を受けた.
3)交通系施設としては,交通量の少ない小規模橋梁が落橋したが,全般的には被害を受けるような構造物は少なかったため被害は限定されたものであった.
4)特異な地盤構成を有するラクイラ市とAterno川沿いの沖積軟弱地盤上に散在する中小の村落において被害が著しい.ラクイラ旧市街では,地下空洞の崩壊に伴う路面陥没が生じた.
5)ラクイラ市で観測された強震記録により,加速度応答スペクトルは周期0.1〜0.5秒で1g を上回る箇所があり,断層近傍の強震動はかなり強いものであった.
6)Aterno川沿いでは,地盤の滑り,液状化,流動化が,また,周辺の山岳地では落石等が発生した.