2010 Vol.8 No.1「海ー自然と文化」東海大学紀要海洋学部  2010年04月20日発行
メルヴィルの仮面劇
−人間愛と人間不信−
五十嵐博
要 旨
メルヴィルの9作目で最後の長編『信用詐欺師』にはシェイクスピアの引喩が多発するが,人間を憎悪するタイモンの精神が,詐欺師の8枚の仮面の背後にあるものを解明する鍵である.作品全体を通して「愛」,「信」,「信用」,「不信」という言葉が頻出する.愛と信を詐欺師は対外的に唱道し,ミシシッピ川を下る蒸気船フィディーリ号に乗っている「愚か者ども」から愛と信を獲得しようとする.しかし,人間不信とキリスト教不信が彼の仮面劇の結末に顔を出す.